Q4に示したように、「医療機器の臨床的な有効性及び安全性が性能試験、動物試験等の非臨床試験成績又は既存の文献等のみによっては評価できない場合は、臨床試験(治験)の実施が必要です。しかし、臨床試験成績に関する資料の提出が必要な範囲の機器であっても、既存の文献等によって評価可能と考えられる場合には、「臨床評価報告書」でもって臨床試験成績に代えることが出来ます。」注1)となっています。

しかし、「動物試験等の非臨床試験成績又は既存の文献等のみによっては評価できない場合」の解釈は明確ではありません。これに関して、厚生労働省は、2017年に「医療機器の「臨床試験の試験成績に関する資料」の提出が必要な範囲等に係る取扱い(市販前・市販後を通じた取組みを踏まえた対応)について」の通知注2)を発出しています。

これは、医療機器は改良、改善が頻繁かつ多様な内容で行われる等の特性があるため、それらの特性を活かしつつ、開発をより効率的に行う観点から検討されたもので、市販前から市販後まで一貫した安全性及び有効性の確保策を実施することにより、市販前の新たな治験実施の有無によらず、承認申請を行い得ると考えられるケースの取扱いを整理したもの注1)となっており、リバランス通知と呼ばれています。

この通知では、以下の3つケースについて具体的な対応が示されています。

  1. 国内医療環境への適合性を評価するための治験の取扱い
  2. 追加的な臨床的付加価値が比較的小さく、重大なリスクが想定されない改良医療機器の治験の取扱い
  3. 診断の参考情報となり得る生理学的パラメータを測定する診断機器に関する相談

1は外国で実施された治験成績の外挿性、2は低リスクの改良医療機器(臨床あり)に相当する医療機器、3は診断支援機器に関するものです。

3では、これまで「治験」が求められていた「新しい診断指標」の数値等に関して、最終目標の臨床的意義が確立されていない段階において、「使用目的又は効果」の範囲を限定することで承認申請を行うための道筋が示されています。これには、添付文書に「測定データはあくまで定性的であり、ひとつの参考情報であるため、他の情報とともに医師が総合判断すること」や「参考情報であり、診断の妥当性を保証するものではない。」などの制約が付きますが、承認後、臨床的エビデンスを確立した段階で一部変更申請などを行い、最終目標である臨床的意義を標榜することが出来ます。なお、この通知では、対象は、診断の参考情報を提供する低リスクのモニタリング医療機器となっています。

一定程度の臨床データが入手可能な、医療上の必要性の高い医療機器については、2017年に、使用条件の設定、市販後のデータ収集などの製造販売後のリスク管理を適切に行う事を前提に、限られた臨床データを基に承認申請を可能とする「革新的医療機器条件付早期承認制度」が実施されています。また、2020年9月1日に施行された薬機法の一部を改正する法律において、「医療機器等条件付き承認制度注3)として法制化されました。

この承認制度では、2つの類型が対象となっています。

類型1は、以下の要件の全てに該当する医療機器又は体外診断用医薬品を対象としており、製造販売後リスク管理措置を適切に実施することを条件に、新たな治験を実施することなく、当該医療機器の安全性、有効性等を確認し、承認することになっています。

(類型1)

  • ア.生命に重大な影響がある疾患又は病気の進行が不可逆的で日常生活に著しい影響を及ぼす疾患を対象とすること。
  • イ.既存の治療法、予防法若しくは診断法がないこと、又は既存の治療法等と比較して著しく高い有効性又は安全性が期待されること。
  • ウ.一定の評価を行うための適切な臨床データを提示できること。
  • エ.新たな臨床試験又は臨床性能試験の実施に相当の困難があることを合理的に説明できること。
  • オ.関連学会と緊密な連携の下で、適正使用基準を作成することができ、また、市販後のデータ収集及びその評価の計画を具体的に提示できること。

また、類型2は、以下の要件の全てに該当する、焼灼、遮蔽等の身体に物理的影響を与えることを目的とした医療機器又は体外診断用医薬品で、特定の疾病領域にかかる臨床データ等があり、他領域にも外挿可能と考えられるものが対象となっており、PHOENIX(Physical OpEratioN Items’ eXtrapolative and inclusive approval)制度と呼ばれています。

これは、手術ロボットでの反省を踏まえ、施設や術者等の限定や市販後安全対策の充実強化により、機器のもつ機能に着目した他臓器や部位への迅速な適用追加を実現するものになります。

(類型2)

  • ア.焼灼その他の物的な機能により人体の構造又は機能に影響を与えることを目的とする医療機器又は体外診断用医薬品であって、医療上特にその必要性が高いと認められるものであること。
  • イ.既存の臨床データでは直接的に評価されていない適用範囲に関する有効性及び安全性について、一定の外挿性をもって評価を行うための適切な臨床データを提示できること。
  • ウ.新たな臨床試験又は臨床性能試験を実施しなくとも、その適正な使用を確保できることを合理的に説明できること。
  • エ.関連学会と緊密な連携の下で、適正使用基準を作成することができ、また、市販後のデータ収集及びその評価の計画を具体的に提示できること。

医療機器は、低リスクから高リスク、小型から大型まで多種多様のものが存在し、市販後も継続的な改良・改善が繰り返されます。こうした医療機器の特性に応じた承認制度が順次施行されていますので、引き続き、今後の動向を注視する必要があります。
(2021年6月30日時点の記載です。)

(注1)薬食機発第0804001号通知「医療機器に関する臨床試験データの必要な範囲等について」(平成20年8月4日))
(注2)薬生機審発1117第1号・薬生安発1117第1号通知「医療機器の「臨床試験の試験成績に関する資料」の提出が必要な範囲等に係る取扱い(市販前・市販後を通じた取組みを踏まえた対応)について」(平成29年11月17日)
(注3)薬生機審発0831第2号通知「医療機器及び体外診断用医薬品の条件付き承認の取扱いについて」(令和2年8月31日)