医療機器の承認等においては、「品質」、「有効性」及び「安全性」が評価の対象となります。一方、特許の出願では、「産業上利用可能性」、「新規性」、「進歩性」が要件となり、加えて、特許を受けようとする発明が明細書に明確に記載され(「明確性の要件」)、実施可能なものであって(「実施可能要件」)、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない(「サポート要件」)とされています(注1)。
医薬品の場合は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明であることから、医薬発明(注2)として、記載要件などについて特許審査の運用を明確化した審査基準が作成されています(注3)。
この医薬発明では、有効成分となる化合物等の薬理作用(新たに発見した属性)により、当該化合物等が特定の疾患の治療(新たな用途)に適することを裏付ける資料が、発明の詳細な説明に記載されていることが必要とされています。このため、有効成分となる化合物等の薬理作用、特定の疾患の治療に適することを裏付ける資料として、通常、有効成分の化合物等に関する薬理試験結果の記載が必要となります。この薬理試験として、臨床試験、動物実験あるいは試験管内実験が挙げられています。発明の詳細な説明の記載が不足していた場合、出願後に試験成績を提出してそれを補うことは出来ないため注意する必要があります。
一方、医療機器の場合は、他の産業分野の発明と同様に、その構造や動作原理から機能や効果を示すことが比較的容易であることが多く、薬理試験のように有効性を示すデータが求められることは余りありません。このため、試作品で評価を行う前のアイデア段階でも特許出願が可能となっています。ただし、特定の用途など、技術常識や文献等からだけでは、発明の詳細な説明が不足していると判断される場合は、医薬品と同様に試験成績等の裏付けを求められることに留意する必要があります。特に、近年、デジタルヘルスの出現により医薬品と医療機器の境界が判り難くなっています。プログラム医療機器においては、AI機能などを搭載することでその物の用途と効果との一体性が明確でなくなっています。こうした場合、発明の効果を主張する上で有効性を示す試験成績等のデータは効果的です。
また、米国では日本では認められていない「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」などの医療関連行為発明が特許権として認められていることについても留意する必要があります。日本で、「物の特許」として出願した後、国際出願をして米国で「方法の特許」としての特許権取得を目指す場合、有効性を示すデータを当初の明細書に盛り込んでおくとより広い範囲で権利化できる可能性があります。
(2022年10月1日時点の記載です。)
(注1)「特許・実用新案 審査ハンドブック(特許庁)」
(注2)医薬発明は、ある物の未知の属性の発見に基づき、当該物の新たな医薬用途を提供しようとする「物の発明」であり、「医薬用途」とは、以下の(i)又は(ii)を意味します。
(i)特定の疾病への適用
(ii)投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法又は用量が特定された、特定の疾病への適用
(注3)「特許・実用新案 審査ハンドブック 附属書B 第3章 医薬発明(特許庁)」