国内の「臨床評価報告書」は、本来は臨床試験(治験)が必要な品目に対して、既存の文献等を用いて臨床上の有効性及び安全性を評価できる場合に作成するもので、臨床試験成績(治験成績)に代えて提出する承認申請のための添付資料になります。一方、EUの「臨床評価報告書(Clinical Evaluation Report ; CER)」は、医療機器のライフサイクル全体にわたって行われる臨床評価注1)の結果を文書化したもので、全てのクラス分類の医療機器注2)において実施が求められます。このため、国内の「臨床評価報告書」はEUと比較して狭義となっています。
EUの臨床評価は、使用説明書に基づいて機器を使用した場合に、医療機器規則(Medical Device Regulation; MDR)の「安全性と性能に関する一般的要求事項」(General Safety and Performance Requirements; GSPR)に機器が適合していること、リスク/ベネフィットが受容可能であることを、臨床データによる十分な臨床的エビデンスに基づいて示すことが目的となります。このため、製造業者は、当該機器や同等機器に関して保有している臨床データ、文献検索から得られる臨床データ、また、当該分野の最新知識や最先端技術に関する情報を収集し、それを評価、分析して、臨床評価報告書を作成する必要があります。この「臨床評価報告書」は機器の技術文書の一部と位置付けられています。
機器によっては、文献検索による臨床データが、臨床エビデンスの大部分を占める場合があります。このため、文献検索と文献レビューは慎重に計画され、プロトコルを作成して包括的かつ批判的なアプローチで行うことが求められます。一方で、既存の臨床データや文献だけではエビデンスが不十分な場合は、臨床試験(clinical investigation)注3)を実施することで、新たに臨床データを取得する必要があります。臨床試験の必要性は、機器の使用目的やリスク/ベネフィットなどを考慮して判断する必要があります。高リスクのクラスⅢや埋込み型の医療機器では、原則、臨床試験が要求されます。
(2024年3月1日時点の記載です。)
(注1)EUの医療機器指令(Medical Devices Directive93/42/EEC; MDD)では、臨床評価のガイダンスMEDDEV 2.7/1 rev.4 “Clinical evaluation: Guide for manufacturers and notified bodies”(June 2016)が発行されていましたが、医療機器規則(Medical Device Regulation 2017/745; MDR)では、それに代わるガイダンスがいまだ発行されていません。このため、ガイダンスが発行されるまでは、引き続きMEDDEVに従う必要があります。ただし、MDRとの間に相違がある場合、MDRが優先されます。
(注2)EUでは、医療機器はクラスⅠ、クラスⅡa、クラスⅡb、クラスⅢにクラス分類されています。
(注3)EUでは、”clinical investigation”の用語が、clinical trial (臨床試験)またclinical study (臨床研究)と同義として使用されています。